【アルバム紹介】全ての条件が揃った傑作、U2「アクトン・ベイビー」
私が古くハンドルネームの一部に使っている「ボーノ」関連でU2から書きましょうか。
今回紹介するのはU2のアルバム、「アクトン・ベイビー」(1991)。前作の「魂の叫び」から徐々に変化の兆しを見せていたU2だったが、「アクトン・ベイビー」からの1stシングル「The fly」を最初に聞いたときの衝撃はいまだに忘れられない。この歪きったギターがひたすらうるさいこの曲があの「With or without you」を歌っていたU2の新曲だって?
U2 - The Fly Official Video (HD) (FULL VERSION)
私はそれまで別にU2ファンでもなんでもなかったが、現在一番人気があるといっても過言ではなかったU2の変節ぶりに一体彼らに何が起こったのか?ととても気になりアルバムを聴いてみることにしたのだった。
前作2作ではブルース、カントリーなどアメリカへの憧憬を表していたU2だったが、このアルバムでは一転、ヨーロッパ回帰ともいえる退廃的なサウンドを身にまとった。アメリカへルーツ回帰の旅を終え、再びヨーロッパ的なサウンドに転身する、というのはデビット・ボウイが先駆けであったかもしれない。ただ、今でこそ評価が高いデビット・ボウイのいわゆるヨーロッパ3部作だが、商業的には必ずしも成功したとは言えず、デビット・ボウイが次の名声を手にするまでには、シックのベーシストであるプロデューサー、ナイル・ロジャースとの出会いを待たなければならなかった。
話をU2に戻そう。人気絶頂の中、突如方法変換を図ったU2。期間限定シングルだった「The fly」は驚きと困惑をもって迎えられ、発売期間が3週間という短期間だったことも手伝い、チャート的にはあまり振るわなかった。しかしながら、「Mysterious ways」「The one」はチャート上位に食い込み、結果としてアルバムも驚異的な売り上げを見せた。
私はこのアルバムは90年代のその後のロック/グランジ・ミュージックに大きな影響を与えたと思っている。今でこそ当たり前に聞こえるロックとダンス・ミュージックの融合だが、実際にそれを成功させているバンドはほとんどいなかった。世界的に売れているバンドでそれを最初に果たしたのがU2ではなかったろうか。
厳密に聞けば、今のEDMのようにシンセサイザーや打ち込みサウンドが多様されている訳ではない。使われている楽器は基本的にバンドメンバーの演奏がほとんどなのだが、ギターエフェクトとリズミックなドラムで見事にダンス・ミュージックを再現していて、そこにロックサウンドにごく自然にダンス・ミュージックを内包してしまったマジックが存在していると思う。
このバンド、その時のバンドのキャリア、そして時代、この全ての条件が揃わないと生まれない傑作というものがあり、この「アクトン・ベイビー」はまさに全ての条件が揃った奇跡のアルバムだといえる。